「できる」実感が、成果につながっていく

岩田伸一郎(いわた・しんいちろう)
教授
建築工学科(建築計画・設計)
永井香織(ながい・かおり)
教授
建築工学科(仕上材料)
下村修一(しもむら・しゅういち)
教授
建築工学科(基礎構造)

※掲載内容は、取材当時のものです

生産工学部建築工学科では、2022年より順次、少人数制の「スタジオ演習」を軸とした新カリキュラムに移行しています。教育体制が大きく変わる中で、建築工学科はどのような学生を育てていこうとしているのでしょうか。また、実際にどのような卒業生を輩出しているのでしょうか。新カリキュラムの設計に携わった3人の先生にお話を伺いました。

さまざまな分野を行き来して、
目指したい道を探そう。

―生産工学部建築工学科は、もともと建築総合、建築デザイン、居住空間デザインの3つのコースに分かれた「コース制」で成り立っていましたよね。2022年よりそのコース制を廃し、新しいカリキュラムへの移行を開始したわけですが、その経緯について教えてください。

岩田:大きなきっかけは、国際標準の建築教育を目指したことです。JABEEという、グローバルに活躍する技術者を育成するための教育プログラムの認証をとることにしたのです。『眼を養い、手を練れ』といった本学独自で定評のある建築教育を継承しつつ、国際的なスタンダードである建築教育を融合するために、コースを一つにして新しいカリキュラムに移行することを決めました。

永井:学生の興味はデザインからエンジニア領域まで幅広く、学びの途中で興味の対象が変わることも考えられます。そこで、新しいカリキュラムでは、さまざまな分野を横断して学べる「スタジオ制」を導入しました。

岩田:スタジオ制は、他の建築系学科も取り入れていますが、私たちの学科ではデザイン分野だけでなく、構造や材料といった分野もミックスした上で、スタジオ科目を組みました。学生は、3年次から大学院まで様々な課題のスタジオを選択することができます。

永井:学生はさまざまな分野を行き来しながら、自分の将来を考えられます。その中で「この分野を突き詰めていきたい」というものが見つかれば、スペシャリストの道も選べる点が大きな特長だと思います。

―新カリキュラムを運用し始めて見えた課題はありますか? また、新カリキュラムを通じて学生にどんなことを学んでほしいと思っていますか。

下村:二人がいま話した、いわば理想の教育というものを、どのように実現するかが非常に難しくて。ジェネラリスト(幅広い知識やノウハウを持つ人)を育てる教育は大事ですが、やはり、現場にはスペシャリスト(専門的な知見や技術を持つ人)も必要だと思うのです。特に、私や永井先生のようなエンジニア分野、つまり技術職の知見がある教員は、より高密度な教育を通じて、スペシャリストを育成していきたいという思いがあります。

永井:エンジニア分野では、実験装置を使って研究を行い、試行錯誤を繰り返しながら、その先まで想像できる力を養うことが求められます。4年間の制約の中で、将来を考える時間と専門的な知見を学ぶ時間をどのように提供するか、カリキュラムを検討する中でずっと課題として意識し続けていますね。

岩田:社会に出ると、異なる分野の人たちの意図を汲み取りながら、自分の能力をどう生かしていくか考え続けなければなりません。特定の分野だけに精通していても、他の分野のことを知らなければ、求められる成果を挙げられないかもしれません。優秀なエンジニアはデザインの知識も持ち合わせているケースが多いんです。建築工学科で構造や材料を学んだ学生には、そんな「デザインマインド」を持ったエンジニアになってもらいたいと思っています。

多様な選択肢が
未来の可能性を広げる。

―建築工学科のオリジナリティや強みについてお聞かせください。

岩田:学部の4年間については2022年度にJABEEに申請し認定を受けました。さらに2024年度には、新たにUNESCO-UIAの世界的な建築教育認定に対応した、大学院も含めた6年間のプログラムとして認定を受け、生産工学部の高い設計力に磨きをかけようとしています。

下村:国内では、5校の学科がUNESCO-UIAに認定されていますが、デザイン+エンジニア分野で認定されるのは当学科が初めてです。

永井:世界の大学での建築教育は5年制がスタンダードで、海外で資格を取るためには、海外の大学に入り直さなければなりませんでした。ですが、UNESCO-UIA認定を受ければ、世界水準の建築教育を受けていると認められるため、修士取得後に海外の建築事務所を目指すことも可能になります。将来の可能性が広がるという点で、UNESCO-UIA認定は学生にとって大きなメリットになるはずです。

―日本大学の「理工学部建築学科」などの、別の建築系学科との違いはどんなところにあるのでしょうか。

下村:受験生からも、よく理工学部建築学科との違いを聞かれます。それは教員の専門性だと思います。例えば、私や永井先生の専門分野である基礎構造、仕上げ材料といった分野では、学会の最前線で活動しています。理工学部と生産工学部ではそれぞれが研究活動面で持っている強みが異なります。生産工学部建築工学科は「ものづくりに特化した建築学科」なので、ものづくりにまつわる幅広い分野を学べる、というアドバンテージはあると思います。

岩田:3年生全員が夏休みに2週間のインターンシップに行く必修科目「生産実習」も、生産の建築ならではの授業です。これは大学と企業が連携して行なう授業で、学生は仕事のリアルを体験することで、改めて大学で建築を学ぶ意味を感じて帰ってきます。これは、理工学部建築学科のみならず、他大学でも例のない取り組みだと思います。

永井:大学所属の研究者による分野融合の「リサーチグループ」が設置されていることも大きな違いです。分野融合のテーマを設定してリサーチ(研究)グループを組み、他の学科の先生と一緒に共同研究する機会があるんです。研究の内容に興味をもった学生もリサーチグループに参画できるようになっています。学生の興味・関心に応えられる仕組みがあることは、生産工学部建築工学科の強みだと思っています。

下村:あとは施設環境の違いも挙げられると思います。昔、ある学生が「生産の建築を選んだ理由は、実験施設がすぐそばにあるから」と話していました。キャンパスの中に実験施設があり、思い立ったらすぐ行動できるのは、環境的に恵まれているんじゃないでしょうか。

泥くさく、粘り強く。
努力は成果として還ってくる

―卒業生の進路について教えてください。建築工学科では、どのような就職実績がありますか?

岩田:当学科は正直なところ、建築系の大学の中でも入試のハードルはそれほど高くない方……と言えるかもしれません。しかし卒業後の進路を見ると、国公立や私立有名大学と就職先がそれほど変わらないんです。有名大学出身者と肩を並べて仕事しながら、素晴らしい成果を挙げている卒業生は数多くいます。

下村:社会に出てから成果を挙げられる理由の一つは、大学在学中に、学会やコンペティションなどに挑戦できる機会が多くあるから、と私は感じています。在学中から学会発表に着手し始め、発表賞を受賞する学生も少なくありません。

永井:私たち教員も、学会やコンペティションへの参加を推奨しています。そのような機会を逃さず果敢に挑戦し、受賞も夢ではないと実感してもらうことで、次第に自信がついていく。それが、就職活動や仕事の成功につながっていくのではないでしょうか。

岩田:興味深いのは、コンペティションで結果を残すのが、必ずしも成績優秀な学生ばかりではないということです。成績はともかくとして、「とにかく建築が好き」という思いを抱き、泥くさく努力を続けた学生が賞を取るという、小説や漫画のようなことが実際に起きています。

永井:そうですね。研究室に所属する時は単位がギリギリでも、学ぶことに興味が出てくると、誰よりも実験をしたり、学会に参加したりするようになっていきます。4年生の終わりには学会で賞をもらい、一流企業や建築業界で評価が高い企業に就職していくこともあります。そういう例を目の当たりにすると、本人の頑張りが成果として還ってくるんだなと実感します。

―学生たちがそこまで努力できるのはなぜでしょうか。

岩田:どんな学生にも寄り添って、引っ張り上げるような教育体制になっているからではないでしょうか。入試のハードルが高くないからこそ、この学科にはさまざまなバックグラウンドをもつ学生が入ってきます。工業高校から来る学生や、進学校から来る学生、学生時代はスポーツばかりしていた学生など、入学時の個性や能力にバラつきがあるんですね。多様だからこそ刺激を受けられる、というところもありますし、また、成績優秀な学生とそうでない学生の差も激しいですが、私たちはどんな学生に対しても、しっかり教えています。そうすれば、学びたいと一生懸命やる学生はぐんぐん伸びていきますね。

下村:あとは、先輩後輩の距離が近く、ロールモデルを見つけやすいことも大きい要因だと思いますね。自分の将来を想像しやすいですし、先輩の考え方や手法を取り入れる中で、いつの間にか成長している学生も多いように感じます。

―学生と話をする時に、先生方からよく伝えていることはありますか?

岩田:昔、ある先生がおっしゃっていたことの受け売りですが、日本で建築を学ぶ場合、スタートラインがほぼ一緒なんですよね。工業高校で学び始める学生もいますが、あくまで取っ掛かりの部分であって、皆が18歳や19歳から学び始めるんですね。日本の建築は世界的にみてもレベルが高いといわれています。大学からのスタートで世界のトップクラスを目指せる分野であるということは、学生にもよく伝えています。受験勉強の成績、偏差値なんかは関係ない。世界で活躍する本学科卒の建築家や技術者は本当にたくさんいます。

自分らしさを大切にしたい、
手探り状態の人にこそ来てほしい。

―建築工学科にマッチするのはどのような人だと思いますか?

永井:岩田先生のお話にもありましたが、建築は大学に入ってからがスタートです。ですから、入学時点で建築の知識が少なくても構いませんし、建築以外の分野が好きな人も大歓迎です。建築は文化や生活のあらゆる面と関わりがあります。音楽や美術、読書、ファッション、スポーツなど何でもいいので、好奇心を持って取り組める学生と出会いたいですね。

下村:建築は「沼だらけ」の学問で、学んでいくうちにハマる要素がたくさんあるんですよ。一つ「楽しい」と感じる要素が見つかると、がむしゃらに取り組みたくなると思います。なので、今はまだやりたいことが見つからないけれど、自分に合った「何か」を見つけたいと考えている、手探り状態の学生にこそ来てもらいたいですね。

―入学後、「こんなことに取り組むといい」といったアドバイスがあれば教えてください。

永井:外国語を学ぶことを強くおすすめします。言葉ができれば世界中に話せる人が増えますし、海外の文献も読めるようになりますから。今までサボっていても、これから4年間しっかり勉強すれば言語力は身につくので、ぜひ挑戦してみてください。

岩田:さらに、自分の専門分野とは異なる分野にも目を向けてほしいですね。私は昔、研究室の学生に対して、建築以外の分野の本を1冊読んで、皆にレクチャーしてくださいという課題を出していました。そしたら医学の本や哲学の本など、さまざまなジャンルの本を持ってきて、すごく面白かったですね。そんなふうに、一見関係ない分野に目を向けてみると、意外なところから建築のひらめきが浮かぶことがあります。先ほど永井先生も言っていましたが、学生のうちに、ぜひ色んなことに興味を持ってほしいです。

今ここがスタートライン。”好き”の力で未来を拓こう。

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